賃金減額・退職金不払
賃金と退職金
(1)賃金とは
賃金は、労働の対価です。賃金の額は雇用契約時において、必ず書面で提示されることが必要です。また、昇給、減給については、就業規則において定めていなければなりません。
(2)退職金とは
退職金とは退職した労働者に支払われる金銭のことで、その法的性質は、功労金、賃金の後払い、退職後の生活保障の生活を保障するという意味合いをもちます。
必ずしも支払われるものではありませんが、以下の場合には、退職金も労働基準法11条の「労働の対償」としての賃金に含まれ、会社は支払わなければなりません。
- ・就業規則に、適用者の範囲、計算方法、支払時期などの明確な定めがある
- ・退職金の支給が慣例として認められている
不利益変更の禁止
会社側が就業規則に記載されているにもかかわらず、あるいは労働慣行として認められているにもかかわらず、労働者の同意なく一方的に減給したり、退職金支給を取りやめたりすることはできるでしょうか?
(1)労働者ごとに個別の同意が必要
減給や退職金不払いは労働者にとって労働条件の不利益な変更となるので、原則、労働者ごとに同意を得る必要があります(労働契約法第9条)。その同意は、会社から十分な説明や情報提供を受けた上で、労働者の自由な意思に基づくものでなければなりません。
(2)労働者の個別の同意なく不利益変更できる場合
以下の場合には、例外的に、労働者の個別の同意を得ずに労働条件の不利益変更を行うことができます。
①人事評価制度に基づく等級の引き下げに伴って減給する場合
人事評価制度を採用する場合に、その評価に従った等級の引き下げおよびそれに伴う賃金の減額が就業規則に定められていれば、労働者本人の同意を得ることなく、人事評価の結果に基づいて賃金を減額することができます。
②業務命令としての降格・降職に伴う賃金減額
労働契約上、使用者は人事権を行使して、労働者をさまざまな職務やポストに配置することが予定されています。そのため、たとえば、課長の役職にあった労働者を一般職員に降格することは、就業規則に定めがなくても可能です。降格・降職処分の結果、当該労働者の同意なく減給となることがあります。
③懲戒処分による場合
就業規則に、無断欠勤や職務怠慢など労働者の非違行為について制裁として減給できることが記載されていれば、労働者本人の同意なく減給をすることができます。
ただし、減給する金額について次の制限があります(労働基準法第91条)。
- ・1回の減給の額は、平均賃金1日分の半分を超えない
- ・減給の総額は、一賃金支払期間における賃金総額の10分の1と超えない
④就業規則の変更によって労働条件の不利益変更を行う場合
就業規則そのものを変更して労働条件を変える場合には、労働者の同意なく減給ができます。
ただし、次の要件が必要です(労働契約法10条)。
- ・就業規則の変更に合理性が認められること
- ・変更後の就業規則を労働者に周知すること
⑤労働組合との間で労働協約を締結した場合
労働組合がある会社では、組合と会社の労働協約により、個別の労働者の同意を得ることなく、就業規則などで定められた賃金の引き下げなどの不利益変更することも可能です。
賃金減額、退職金不払いとなった場合の対応
合理的な理由ないのに、会社が労働者の同意を得ず一方的に賃金を減額したり、退職金を支払わなかったりした場合は、労働者はどう対処すればよいでしょうか?
(1)時効消滅に注意
「雇われている(雇われていた)身だから」と会社に遠慮していてはいけません。
賃金については2020年3月31日以前に発生したものについては2年、2020年4月1日以降のものについては5年(当分の間は3年)、退職金については5年を過ぎると権利が時効消滅して、請求できなくなってしまいます。とくに2020年3月までの賃金については急いで行動を起こす必要があります。
(2)一般的な流れ
会社と交渉する際に、多くの方が労働基準監督署(労基署)に相談して助言や指導を求めます。労基署は、相談内容によっては事実関係を確認するために会社を訪問して調査し、その結果、労働基準法等の違反が認められる場合は、会社に是正勧告を行います。
また、弁護士や学者などの労働問題の専門家によるあっせんを受けたい場合には、各都道府県労働局の紛争調整委員会による手続きを受けることもできます。
これらを経ても解決しない場合には労働審判、さらには通常訴訟へと発展していきます。
まとめ
時効消滅を一時的に止める手段として内容証明郵便の送達という方法がありますが、弁護士が代理人として送付するだけで問題が解決することも少なくありません。また、労基署への相談も弁護士を伴えば、必要な証拠を過不足なく整えることでスムーズな対応が期待できます。さらに交渉事は弁護士の得意とするところです。
問題を長引かせないためには弁護士への早めの相談がカギになります。