退職せずに労災申請は可能か
仕事中、または、通勤中にケガをした場合、まずは、労災指定病院等へ行って、治療をしてもらいます。労災認定がされれば、治療代はかかりません。治療のために働けない期間については休業補償として金銭が支払われます。
そして、傷病等級に該当すれば、傷病(補償)給付、症状が固定し、障害等級に該当すれば、障害(補償)給付がされます。不幸にも死亡した場合には、遺族に対して年金または一時金という形で補償が行われます。
このように手厚い補償が受けられる労災保険給付ですが、その請求は「退職」と何か関連があるのでしょうか?
退職前の労災保険請求
①間断なく続く給付(補償)
休業(補償)給付は、主治医が働ける状態ではなく休業を要すると判断した期間について受けることができます。また療養開始後1年半を経過しても治癒せず(症状固定)、良好な状態でないときには、傷病(補償)給付へと切り替わります。さらに症状固定した後、一定の障害が残ったときには、障害(補償)給付に切り替ります。このように、労災保険では「働けない状態」であることを前提に間断なく給付(補償)が続くため、申請には退職が条件とお考えの方もいらっしゃいます。
では、退職してからでないと労災保険給付の請求ができないのでしょうか?
②退職は給付(補償)要件ではない
いいえ、退職をしなくても、休業(補償)給付、傷病(補償)給付、障害(補償)給付の請求はできます。
これらの給付請求をするために退職することが条件とはなっていないからです。
また、労働基準法19条は、業務上のケガや病気を療養するために休業している労働者に対しては、休業中とその後30日間は、原則として解雇を禁止しています。つまり、業務災害であれば、会社は倒産や定年といった特別な事情を除いては、労働者を辞めさせることができないのです。したがって長期休業であっても、被災労働者は退職しなければならないのではと気を揉むことなく、療養に専念することができます。
退職後の労災保険請求
①退職後にはじめて請求する場合
退職後は、労災保険の請求ができないのではないかという心配を持たれる方もいます。
しかし、退職したというだけの理由をもって請求ができなくなることはありません。
たとえば休業補償給付の場合ですと、仕事が原因の傷病により療養していること、そのために働けず、会社から賃金を受けていないことが必要ですが、雇用関係の存続は要件ではありません。労働災害補償保険法12条の5においても「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と規定しています。つまり、退職した後でも、休業補償給付をはじめとする労災保険給付の請求が可能です。
もし、会社の倒産により退職することになった場合でも、自身で請求書を作成して申請すれば、在職中と同様の労災保険給付を受けることができます
②給付途中で退職した場合
すでに療養給付や休業給付が始まっていたが、途中で定年や契約期間満了、あるいは会社の倒産などで退職することになった場合にも、引き続き労災保険給付を受けることができます。ここでも、労災保険法の第12条の5によって労働者の保護がなされています。
実際にも在職中に療養補償などがなされたものの、後々になって労災が原因である後遺障害が生じることがあります。このため退職後に障害給付の申請など労災請求することも少なくありません。
労災保険給付は労働者の退職の前後に関係なく、あくまでも業務中や通勤中にケガや病気になった労働者の保護を図ることを目的としています。傷病が生じた時点において、会社に在職しておればよく、あとは、ケガの程度、治療状況に応じて補償していこうというものなのです。
まとめ
労災をめぐってはさまざまな誤解が生じています。とくに「会社」と「休職している労働者」という歴然とした力関係から、退職や解雇と絡めて多くの憶測が飛び交っています。しかし、労災と雇用問題はまったく別のものです。
「会社に労災申請を頼んだら、暗に退職を勧められた」「長期間休むことになり、退職しないと気まずい」など、お困りの方は一度、弁護士にご相談ください。療養に専念しながらご自身の正当な権利の保護を目指します。