労働保険給付の申請手続き
日常生活においては、通常、ケガをしたとき、病院に行って被保険者証を提示すると、診療代の3割が自己負担、残りは健康保険から診療代が支払われることになります。
では、労働者が仕事中や通勤途中にケガをした場合は、負担割合はどうなるのでしょうか?
この場合は、労災保険給付の申請をして国から労災保険の認定を受ければ、診療代全額が国から支払われ、労働者個人に負担はありません。
この労災保険給付について、その条件、内容、そして手続きについて解説します。
労災の申請ができるのは
労働災害が発生した場合に保険給付の申請ができます。
労働災害には、仕事中に発生した「業務災害」と、通勤中に発生した「通勤災害」の2種類があります。
①業務災害
業務災害といえるためには、労働者が災害発生時に事業主の支配下にあったこと(業務遂行性)、業務が原因となって災害が発生したこと(業務起因性)の2点が必要です。
- ・工場での作業中に機械に指が挟まって切断
- ・過労死、過労自殺
(否定例)
- ・労働者が個人的な恨みなどで勤務中に第三者から暴行を受け打撲傷
- ・地震・台風などの天災事変による心因性疾患
②通勤災害
通勤災害にいう「通勤」には次の3つのパターンがあります。
- ・住居と就業場所との往復
- ・就業場所から他の就業場所への移動
- ・単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
これらの移動について、合理的な経路および方法で行っている中で被害が発生し、それが業務の性質を有するものでないことが必要です。
- ・電車通勤中に駅の階段を踏み外して転倒、捻挫
- ・会社からの帰宅途中に日用品を買うため店舗に寄ったところ、自転車と接触して負傷
(否定例)
- ・同僚の送別会に参加するために会社を出た後に交通事故に遭い負傷
保険給付の種類
労災保険で受けることができる給付は次の通りです。
①療養(補償)給付
傷病により療養するとき
給付内容
- 労災保険病院等で療養を受けるとき→療養の給付
- 労災指定病院等以外で療養を受けるとき→療養の費用の支給
②休業(補償)給付
傷病のため労働することができず、賃金を受けられないとき
給付内容
- 休業1日につき給付基礎日額の60%相当額
③障害(補償)給付
傷病が治癒(症状固定)した後
給付内容
- 障害等級に応じた年金、又は、一時金
④遺族(補償)給付
死亡したとき
給付内容
- 遺族への年金
遺族(補償)年金を受け得る遺族がいないときは、一時金
⑤葬祭料、葬祭給付
死亡した労働者の葬祭を行うとき
給付内容
- 315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額
⑥傷病(補償)給付
傷病が療養開始後1年6カ月を経過した日又は同日後において、傷病が治癒せず(症状固定)、傷病による傷害の程度が傷病等級に該当するとき
給付内容
- 障害等級に応じた年金
⑦介護(補償)給付
障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち第1級の者または第2級の精 神・神経の障害及び胸腹部臓器の障害の者であって、現に介護を受けているとき
給付内容
- 介護費用として支出した額
保険給付の申請手続き
次に各保険給付の申請手続きについて説明します。
①療養給付、療養費用支給
傷病の場合は治療することが最優先されるため、まず、病院などで治療を受けます。その場合、労災病院や労災保険指定医療機関であれば、被災労働者は原則として無料で治療を受けることができます。治療を受けた後、事業主に災害の発生日時、原因及び発生状況の証明をもらい、指定病院等を経由して労働基準監督署長へ請求書を提出、その後、診察代が直接指定病院等へ支払われます。
これに対して、指定医療機関でない場合には、被災労働者が一旦療養費を立て替えて支払う必要があります。その後、請求書を直接労働基準監督署長に提出して、支払った診察代を受け取ることになります。
②休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)、介護(補償)給付
指定病院等から傷病の経過、障害の状態、死亡の診断、および事業主から災害の発生日時、災害の原因、発生状況などの証明をもらい、被災労働者が各種請求書を労働基準監督署長へ提出して支給決定通知をもらい、保険金の支給を受けます。
③傷病(補償)給付
傷病(補償)など年金の支給・不支給の決定は、所轄の監督署長の職権で行われますので、被災労働者が請求手続きを行う必要はありません。
療養開始1年6か月経過したときに、所轄監督署から「傷病の状態等に関する届」の提出が求められます。医師の診断書、厚生年金等の加入および受給状態等の届けを添付して所属監督署へ提出し、傷病等級の認定を待って支給を受けます。
まとめ
保険給付申請に際して、業務や通勤から起因する傷病であることの認定がなされなかったり、障害等級・傷病等級の認定に不服があったり、事業主から証明がもらえないなどのトラブルが多く生じます。そのような場合には、申請手続きの代理人である社会保険労務士だけでは対処できなくなりますので、人事労務問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。