不当解雇の法的根拠
解雇の定義と種類
解雇とは、使用者の一方的な意思表示によって、労働者との雇用契約を解消することをいいます。
解雇には大きく分けて、使用者である会社側の事情による場合と、労働者側の事情による場合があります。
前者の場合として、整理解雇、後者の場合として、普通解雇、懲戒解雇があります。
(1)整理解雇
整理解雇は、経営不振による会社再建のための人員削減です。いわゆる「リストラ」です。
(2)普通解雇
やむを得ない事由があるときに使用者が一方的に労働契約を解約することです。たとえば、労働者に重度の勤務態度不良、採用時に重要な経歴を詐称していた、業務外の私傷病などが挙げられます。
(3)懲戒解雇
労働者の就業規則の服務規程違反、懲戒規定の解雇事由に該当する行為があった場合に懲戒処分として行われるものです。たとえば、長期の無断欠勤、業務上の地位を利用した犯罪行為、重大なセクハラ・パワハラなどを理由にします。企業秩序違反に対する制裁としての懲戒処分の中で最も重たい処分です。
不当解雇の法的根拠
解雇は、使用側からの一方的な意思表示によって雇用契約を解消させて労働者の地位に重大な影響を及ぼすことから、法律で厳しく規制されています。
(1)労働契約法16条
労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。
つまり、「客観的に合理的な理由」がない、または「社会通念上相当」ではない場合には不当解雇にあたり、解雇が無効であることを主張するための根拠となります。
①客観的に合理的な理由のない解雇
客観的に合理的な理由とは、以下のものがあります。
- ・労働者の労働能力や適格性の低下・喪失
例:まったく仕事ができない、無断欠勤が続く - ・労働者の義務違反や規律違反行為
例:上司や同僚の言うことを聞かない、再三の注意にも拘わらずセクハラ・パワハラ行為をやめない - ・経営上の必要性
例:業績悪化のため整理解雇
逆に、客観的に合理的な理由がない場合としては、たとえば、上司の個人的な感情によるものは不当解雇として無効主張の根拠となります。
また、業績悪化の名目で解雇されたが、会社が新規採用を行っているような場合は、人員削減の必要性があるとはいえず客観的な合理性は認められないでしょう。経歴詐称についても、重大な詐称や企業秩序を乱すものでない限り、合理性が認められない可能性があります。
②社会通念上相当でない解雇
問題となった事実関係について、解雇処分を行うのがふさわしいかを判断します。事実関係に誤りがないとしてもそれに解雇は重すぎるという場合には、社会通念上相当ではないことになります。
ここにいう「社会通念」とは、他の労働者とのバランス、会社が講じた対策、本人の処分歴や反省の程度など、さまざまな要素が含まれます。
たとえば、同じ問題を起こした労働者がいる場合、1人は降格処分、もう1人は解雇処分となった場合に、後者の処分について相当性が問題となりえます。
他の法令上の規制
労働契約法16条以外にも、法律上、解雇については以下のような制限が規定されています。
- ・労働者の国籍・信条・社会的身分を理由に解雇すること(労働基準法第4条)
- ・労働者が労働組合員であること、正当な組合活動をしたことなどを理由に解雇すること(労働組合法第7条1号・3号)
- ・労働者が女性であることを理由として解雇すること(労働基準法第8条1項)
- ・労働者が妊娠し、出産し、または産前産後の休業をしたこと理由に解雇すること(労働基準法第8条3項)
- ・労働者が育児休業・介護休業・看護休業の申し出をし、または、それら休業をしたことを理由に解雇すること
- ・労働者が法令違反を監督官庁へ申告したことを理由に解雇すること(労働基準法第104条)
- ・従業員が年次有給休暇を取得したことを理由として解雇を行うこと(労働基準法第136条)など
これらに反してなされた解雇は不当といえ、無効となります。
まとめ
不当解雇をされてしまった場合、解雇の無効を訴えて未払い賃金を受け取る方法と、不法行為による損害賠償を請求する方法があります。
前提となる「不当解雇にあたるか」の判断は、様々な事例を扱ってきた経験豊富な専門家でないと判断できない場合が少なくなく、また証拠の集め方や主張の仕方についてもノウハウが必要です。不当解雇をされたとお悩みの方は一度弁護士にご相談ください。