残業代請求への対応
未払い残業代を放置するリスク
従業員あるいは退職した元従業員から未払いの残業代を請求する旨の内容証明郵便が届いた場合、会社は専門家のアドバイスを受けつつ早急に対応する必要があります。
もちろん、常に従業員らが請求する全額を支払わなければならないわけではありませんが、「わからない」「構わない」で放置していると次のような不利益があります。
・遅延損害金
在職中の残業代請求については3%(2020年3月31日までは、年6%)、退職後の請求は14.6%
・付加金
裁判となった場合に裁判所が悪質であると判断すれば、最大で未払い金と同額の金銭
このように、「遅延損害金」に加えて裁判となった場合には「付加金」も課され、本来の残業代金額の倍以上の支払いを命じられるリスクがあるのです。未払いの残業代請求を受けた会社は直ちに対応する必要がありますが、いくつか反論が可能なポイントがあります。
残業代請求を受けた会社の反論
- (1)時効消滅している
- (2)残業代の計算が誤っている
- (3)労働時間が事実と異なる
- (4)管理監督者である
- (5)残業を禁止している
- (6)固定残業代制を採用している
以下、詳しく見ていきます。
(1)時効消滅している
残業代請求権については、2020年3月31日までに発生した分については2年、同年4月1日以降発生分については3年の経過によって時効消滅します。
会社は残業代がいつの時点のものかを確認して、時効期間の経過したものについては消滅時効の援用の意思表示をして支払いを拒むことができます。
(2)残業代の計算が誤っている
残業代の割増率が問題となるのは労働基準法が定める法定労働時間を超えた場合ですが、労働契約上の所定労働時間を超えただけで割増賃金を請求してくるといった初歩的な勘違いや、家族手当など除外される賃金があるにもかかわらず、これらを除外せずに算定の基礎に含めて計算した金額を請求してくるといった計算ミスなどもあります。
仮に未払い残業代の問題があるとしても、従業員からの請求が正当かどうかをしっかり見極める必要があり、従業員の計算方法や計算根拠に間違いがある場合には、毅然とした対応が要求されます。
(3)労働時間が事実と異なる
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。
残業代請求の根拠として労働時間の証明は必須であり、これを裏付ける証拠集めは従業員の側でしなければなりません。したがって、労働時間を示す証拠もなく、ただ抽象的に残業代を請求してきた場合には会社は応じる必要はありません。
これに対して、従業員がタイムカードなどで証明してきた場合には、示された時間について実際は業務に従事していなかったことを示す具体的な事実(インターネット上の閲覧履歴、鉄道系ICの履歴、業務日報など)で反証していく必要があります。
なお、タイムカードの開示を従業員に求められた場合には、従業員の請求態様が権利濫用にあたるなどの特別な事情がない限りは、会社は応じるべきです。正当な理由なく拒んだ場合には従業員への権利侵害として慰謝料請求を認めた下級審判例(大阪地判H22.7.15)があるため、注意が必要です。
(4)管理監督者である
労働基準法上、管理監督者は労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外されており、残業代は支払われないことになっています。
これに対して、自分は管理監督者でないことを理由に残業代を請求することが考えられます。
会社は、当該社員が出勤退勤などについて自由裁量があること、時間外手当の代わりに高額な報酬を得ていること、会社を代表して重要な会議に出席していることなど、労務管理について経営者と一体的立場にあることを立証していく必要があります。
(5)残業を禁止している
会社は明確に残業を禁止していたのに、従業員がそれを無視して自己判断で残業していた場合には、残業代支払い義務はないことを主張できる場合があります。
もっとも、「残業を禁止する」と命令していただけでは、反論としては不十分です。残業禁止命令をする際には、管理職への引継ぎなど、残務についての具体的な措置についての指示もしておかなければなりません。
(6)固定残業代制を採用している
「みなし残業代」「定額残業代」と称する固定された金額を一定時間分の残業代として支給している会社の場合、残業代は支払い済みであるという反論をすることが可能です。
もっとも、前提として採用している固定残業代制が法律上有効であることが必要です。
また、所定残業時間を超えて労働した場合には、別途残業代を支払わなくてはならないことにも注意が必要です。
まとめ
実際に残業代の未払いが発生している場合には会社側の勝算は高くありません。放置すれば付加金のリスクや会社のイメージダウンにもつながります。残業代請求された場合、まずは真摯に対応して事実を確認し、早期に弁護士に依頼して正しく対処することをおすすめします。