残業代請求を早期に相談すべき理由とは
残業代請求を放置する弊害
残業代とは、法定労働時間(週40時間、1日8時間)を超えて働いた場合、その超えた部分について、請求することができる割増賃金のことをいいます。
残業代の未払いが判明した場合、「雇われている身」や「計算や請求の仕方がわからない」という理由で請求を躊躇する方がいらっしゃるかもしれません。しかし、できるだけ早く弁護士などの専門家に相談して請求する必要があります。なぜなら、残業代請求を放置していると以下のような弊害があるからです。
- ・時効により消滅してしまう
- ・証拠収集が困難になり立証しにくくなる
- ・メンタルヘルス不調により、うつ病などの精神疾患、過労死してしまうおそれがある
- ・紛争がこじれると会社に居づらくなる
これらについて、以下、詳細に解説します。
時効消滅について
残業代支払請求権は、2020年3月31日までに発生した分については、給料日の翌日から2年、同年4月1日以降に発生した分については、当面の間3年(将来的には5年になる)で、時効によって消滅してしまいます。
時効消滅してしまっては、どうすることもできません。
そこで、時効消滅する前に中断措置をとる必要があります。中断事由として民法上認められているのは、請求、差押え、仮差押えまたは仮処分、承認です。
ここにいう「請求」とは、単に口頭で催促するだけでは足りず、訴訟提起まで必要です。ただし、内容証明郵便で催告した場合は、その翌日から6か月間は時効完成が猶予され、その間に訴訟手続きをとれば、催告時に時効が中断されたことになります。
中断事由にうち、裁判手続きによらないのが「承認」です。弁護士が交渉することで、会社から支払うとの回答が得られれば時効が中断されます。
いずれにしても、今日現在より2年以上前の未払い残業代はどんどん時効消滅していっており、早期の対応が必要です。
証拠収集について
残業代請求をするには、実際の時間外労働時間の算出が必要で、これを裏付ける証拠は労働者側で収集しなければなりません。
会社は労働時間を管理して、それに関する資料を保管する義務があります。時間管理手段として多く活用されているのがタイムカードですが、会社は労働者からの開示請求に応じるべき義務を明確に定めた法律はありません。そのため、労働者からの請求に会社が迅速に対応しないおそれがあります。結果、証拠の収集が遅れてしまい、その間に請求権が時効で消滅したり、労働者自身が請求をあきらめてしまったりする場合が出てきます。
また、タイムカード以外でも同僚の証言なども証拠となりますが、時間の経過とともに記憶があいまいになったり、同僚が退職していったりなどして、協力を得ることが難しくなりかねません。
弁護士であれば、タイムカード開示義務に関する判例をもとに会社に証拠開示を求めることで、早期の証拠収集が可能となります。
長時間労働に伴う健康被害
未払い残業代が発生しているということは法定労働時間を超えた長時間労働が常態化している可能性があります。実際、従業員による残業代請求をきっかけに労働基準監督署が調査に入って会社の労働管理の改善が行われるケースは少なくありません。
長時間労働を放置していると労働者のメンタルヘルスに不調をきたし、たとえ多額の残業代が発生していたとしても、請求する気力が損なわれるおそれがあります。
また、万が一過労死した場合には、事情のわからない相続人が残業代を請求しなければない事態に陥ります。
「長時間働いているわりには給与が少ない」と感じたときは未払い残業代が発生している可能性があります。健康被害が生じる前に弁護士に相談すれば、健全な精神の状態で残業代請求に向けての準備ができるだけでなく、労働管理の改善も期待でき、過労死を防止するきっかけになります。
紛争の長期化
web上には残業代自動計算ツールや具体的な請求方法に関する情報が溢れており、これらを利用すれば労働者自身で請求することも可能です。しかし、残業代は必ず労働者に支払われるべきものであり、未払い残業代が発生しているという時点で、その会社が残業代を請求してきた労働者と真摯に向き合うことは期待できません。労働者が請求したところで、のらりくらりとかわされ、残業代が支払われないばかりか、紛争が長引けば職場に居づらくなる可能性があります。
未払い残業代に気付いたら初動が重要です。早い段階で弁護士などの専門家を介入させて、会社側の言い逃れや証拠隠しを封じて迅速で確実な残業代回収の実現を目指しましょう。
まとめ
未払い残業代は、時効消滅をはじめ、早期に請求しなければならない理由があります。専門家である弁護士に依頼すると円滑に残業代請求でき、さらに労働環境改善のきっかけにもなります。ひとりで悩まずに弁護士に相談しましょう。