残業代を請求したいときの注意点
残業代とは、法定労働時間(週40時間、1日8時間)を超えて働いた場合、その超えた部分について、請求することができる割増賃金のことをいいます。
会社は労働者に対して当然残業代を支払わなければなりませんが、支払われない場合、労働者の側で請求する必要が生じます。請求するにあたっては、次の3点を準備しなければなりません。請求する残業代を確定すること、時効中断措置をとること、証拠を集めることです。
未払い残業代の確定
残業代は次の計算式で算出します。
1時間あたりの賃金の計算は、以下のように計算します。
1時間あたりの賃金=(基本給+諸手当⁑)÷月平均所定労働時間
*残業時間
労働時間の中には、待機時間、仮眠時間、仕事前の準備・後始末も含まれます。
1時間未満の労働時間の端数処理については、1日ごとに計算するのではなく、1か月間まとめて集計した後に、30分未満は、切り捨て、30分以上は、切り上げて計算します。
⁑諸手当
ここでの「諸手当」とは、労働の対価としての性質をもつものに限られます。具体的には役職手当、皆勤手当、危険手当、無事故手当などです。
これに対して労働者個人の事情に配慮して支給される手当は「諸手当」からは除外されます。具体的には、家族手当、通勤手当、別居手当、次女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)です。
しかし、これらの除外手当であっても内容が一律に決まっている場合には、例外的に計算の基礎に含まれます。たとえば、家族手当が家族の人数に関係ない、通勤手当が距離に関係ない、住宅手当が賃料やローン金額に関係がない、賞与が業績に関係ないなどの場合です。
時効中断措置をとる
残業代の金額が確定したら、会社に対して支払いを求める旨の内容証明郵便を送付しましょう。毎日通勤しているのだから口頭でもよいのでは?とも思われますが、消滅時効の完成を一時的にでも止める必要があるのです。2020年3月31日よりも前に発生した残業代ついては2年を経過すると時効消滅してしまいます。内容証明郵便で請求すれば6か月間は時効が完成せず、その間に労働審判の申立てや訴訟提起などの時効中断措置をとれば、時効の更新ができるのです。
証拠を集める
まず、請求する残業代の計算の基礎となる資料が必要です。給与の計算方法や残業の扱いについて記載された雇用通知書や雇用契約書などの書類、就業時間や時間外労働に関する規定がある就業規則のコピーです。
そして、時間外労働を示す証拠も必要です。タイムカード、出勤簿、業務報告書などがあります。これらの記録については、法律上会社は保管する義務を負いますが、労働者に対して開示する義務はありません。このため開示を拒否することが考えられます。しかし、会社が正当な理由なく開示要求を拒んだ場合には、労働者の権利を侵害するとして不法行為となるとした判例(大阪地裁平成22年7月5日判決)があります。
したがって、正当な理由なく会社が開示を拒んだ場合には、労基署に相談して開示するよう指導してもらったり、弁護士が開示を求めて交渉したりする方法が有効です。
会社からの反論
証拠を揃えて会社に未払いの残業代を請求した場合に、次のような反論がなされることがあります。
(1)賃金に残業代が含まれている
あらかじめ一定時間分の残業代を賃金に組み込んで支給する場合には、基本給と残業代にあたる部分の明確な区分、基本給や残業代の時価単価の規制、残業時間の上限規制などをすべてクリアしなければなりません。
また、一定時間以上に労働した場合には、決められた手当とは別に残業代を請求できます。
(2)管理監督者である
会社が、店長や係長などの管理監督者であることを理由に、残業代は支払わなくてもよいと反論することが考えられます。
しかし、ここにいう管理監督者とは、「部長や工場長など労働条件の決定やその他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者」をいい、大きな裁量権がなければなりません。単に店長、係長との役職をつけただけでは管理監督者といえない場合があるのです。
まとめ
残業代請求は、労働関係法規や判例を熟知していないと、さまざまな注意点に気づかず、確実に回収し損なうおそれがあります。正確な残業代の計算や証拠収集など、請求の準備段階から労働問題に詳しい弁護士からのサポートを受けることをおすすめします。