自己にも過失がある場合の対応
労働者が業務中の事故によってケガをした場合には労災保険の給付を受けることができ、会社に対しては労災とは別に損害賠償請求できる場合があります。
では、労働者側の過失によって事故が発生した場合の労災保険や会社に対する損害賠償請求はどのように扱われるのでしょうか。
労災保険請求する場合
(1)満額給付が原則
労働者が仕事で車を運転中に前方不注意で事故に遭ったり、機械の安全装置をつけ忘れて工場の機械に巻き込まれて指を切ったり、自転車で通勤中によそ見をしたため転んだりなどしてけがをした場合、労災保険の給付を受けられないのでしょうか。
会社の方から、「自らの不注意なので、労災保険がおりない」「自己の過失分は減額される」と言われて、労災保険給付を請求することをあきらめる人がいますが、あきらめてはいけません。
労災保険は、労働者が仕事に専念できるためにできるだけ労働者を保護しよういう制度です。労働者自らの過失があったとしても、事故発生原因に業務起因性・業務原因性が認められ労災の認定がなされれば、治療費、休業損害、後遺障害などについての労災保険が満額給付されます。
(2)例外
労災認定にあたっては、基本的には被災者本人の過失は問題とされませんが、以下の例外があります。
①労災が故意による場合
労働者が故意に労災を引き起こした場合には、保険給付は全額について行われません。
ここにいう「故意」とは、自分の行為が一定の効果を生ずることがわかりながら、あえてこの結果を認容することを言います。たとえば、自ら工作機械の中に手を挿入して指を切断させるような場合です。
②労働者の故意の犯罪行為または重大な過失による場合
このうち「故意の犯罪行為」とは、労災の発生を意図した故意まではないが、その原因となる犯罪行為に故意が認められるものを言います。たとえば、運送業務中のトラックドライバーがスピード違反で走行して事故を起こしたような場合です。
この場合には、休業(補償)給付、傷病(補償)年金、障害(補償)給付について最大30%まで減額されることがあります。また、年金給付については療養を開始した日の翌日から起算して3年以内に支払われる分に制限されます。
③労働者が傷病の治癒や回復に努めなった場合
労働者が正当な理由なく療養に関する指示に従わないことで、負傷、疾病もしくは障害の程度を増進させ、またはその回復を妨げた場合には、休業(補償)給付については10日分相当額まで、傷病(補償)年金については365分の10相当額までの減額がなされることがあります。
使用者に対して損害賠償請求する場合
(1)双方の公平を図る過失相殺
労働者は自己にも過失があった場合に使用者に対して、労災給付請求と同様、損害について満額請求できるのでしょうか。
たしかに使用者には労働者に対する安全配慮義務違反がありますが、その一方で、労働者にも自己安全義務・自己保健義務があります。この場面では、労災保険給付の場合と異なり、労働者の保護よりも、損害の公平な分担を図ることが重視されます。したがって、労働者の過失の程度に応じて、使用者が負担する賠償額が減額されることになります。
(2)過失相殺の具体例
以下、事例を挙げて、どの程度の過失相殺がされたか紹介しましょう。
事例 | 労働者側の過失割合 |
---|---|
労働者が防塵マスク、防毒マスクをしなかったために被災 | 20% |
不法就労の外国人の不慣れや意思疎通の不十分のため、操作ミスによって自己被災 | 30% |
プレス機械等、特に危険な機械の操作や作業にあたって安全装置の不使用 | 40% |
労働者同士の業務に起因するケンカによる被災事故 | 50% |
脳梗塞等の業務起因の疾病につき、使用者側に安全配慮義務違反があるが、本人側にも基礎疾病や生活習慣上の問題があり、しかも要治療とされながら受診、治療を怠った | 60~66% |
労働者が使用者の指示に反して命綱を使用せず、危険を知りながらあえて高所で不安全行為をして被災 | 70~75% |
車両の荷台から建設車両を降ろす際、危険が予測されるのに飛び乗る等極めて危険な行為を軽率に行い被災 | 80~85% |
まとめ
労働者の過失についての扱いは、労災保険と使用者への損害賠償請求では異なります。
まずは、保護の厚い労災保険請求を行い、それで不十分な場合に使用者に対する損害賠償請求を検討することになります。その際には、使用者側は労働者側の過失を問うてくることが予想されます。あらかじめ判例に精通している弁護士に依頼することがおすすめします。